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PROJECTインタビュー

ブランディング 事例インタビュー 三宅本店様 「SETOUCHI DISTILLERY」

創業160年、老舗酒蔵の社運を賭けた挑戦。なぜ後発の「クラフトジン瀬戸内」は成功したのか?

ブランディング 事例インタビュー 三宅本店様 「SETOUCHI DISTILLERY」
CLIENT
株式会社三宅本店 様
MEMBER
株式会社三宅本店 三宅清史取締役、シュンビン株式会社 笠井永充(アートディレクター)
WEB SITE
https://setouchidistillery.com/ https://www.shun-bin.com/lp/rashisa/
AREA
広島県

はじめに

私たちは、企業の「らしさ」をデザインの力で引き出し、事業成長を加速させるブランドデザインカンパニーです。
クライアントの事業に深く寄り添い、その本質的な価値を形にすること。それが私たちの使命です。
今回ご紹介するのは、私たちがお手伝いさせていただいた中でも、特に象徴的な成功事例の一つ、
広島県呉市で160年以上の歴史を持つ老舗酒蔵、株式会社三宅本店様です。
同社が社運を賭けて立ち上げた蒸溜所ブランド「SETOUCHI DISTILLERY」。
その第一弾商品である「クラフトジン瀬戸内」
は、いかにして後発ながら市場に受け入れられ、目覚ましい成功を収めたのか。
株式会社三宅本店の三宅清史取締役のリアルな言葉を通して、私たちがクライアントとの共創を通じて何を実現できるのか。
ブランドデザインが事業にもたらす本質的な価値を、この記事から感じていただければ幸いです。

「社運を賭けた挑戦」すべては直感から始まった

―本日はよろしくお願いいたします。まず、今回の「SETOUCHI DISTILLERY」のプロジェクトは、三宅本店さんにとって非常に大きな挑戦だったと伺いました。どのような想いでスタートされたのでしょうか?
三宅氏:
まさに、社運を賭けたプロジェクトでした。弊社は長年日本酒を造ってきましたが、市場の変化に伴い、「SETOUCHI DISTILLERY」という新たな蒸溜所ブランドの立ち上げを決意しました。日本酒とは製法が異なるジン、そして数年後にはウイスキーと、これまでとは全く違う土俵への挑戦。だからこそ、ゼロからブランドを創り上げる必要がありました。
―笠井さんは、三宅本店さんからお話があった時、どのような印象を持たれましたか?
笠井 永充(Art Director):
お話を伺った時、未来を見据えた壮大な挑戦をされる姿勢に対して、素直にすごいと感じました。ジンの開発から始まり、その先にはウイスキーへの展開も見据えている。並々ならぬ覚悟を感じましたし、デザイナーとしてゼロからブランド創りに関われることは、私にとっても大きなチャレンジでした。デザインは商品の売上を左右する重要な要素ですから、その責任の重さに、正直、武者震いしましたね。
―数あるデザイン会社の中から、笠井さんをパートナーに選ばれた決め手は何だったのでしょうか?
三宅氏:
最終的には「直感」です。笠井さんからご提案いただいたデザインを見た瞬間、「これだ!」と。理屈じゃないんですよ。消費者がスーパーの棚で商品を選ぶ時って、結局は一瞬で目に留まったもの、心惹かれたものを手に取るでしょう? それと同じです。笠井さんのデザインには、こちらの心を掴む何かがありました。
―「直感で選ばれた」と伺って、いかがですか?
笠井:
素直に嬉しいですね。私自身も直感を大切にするタイプですが、デザインを構築する上では、その背景にあるストーリーやコンセプトをロジカルに突き詰めたいと考えています。その両輪が噛み合った表現を評価していただけたのかなと感じ、非常に光栄です。
―その「直感」が「確信」に変わった瞬間はありましたか?
三宅氏:
直感でお願いしたからには、もう信じてついていくだけです。腹は括っていましたから、「一緒に頑張りましょう」という一心でした。笠井さんは、一見クールな印象ですが、こちらの意図を深く汲み取り、要望を瞬時に、しかも想像以上の形で表現してくれる。その仕事ぶりに、すぐに「この人なら大丈夫だ」と確信に変わりましたね。
―単に要望を聞くだけでなく、笠井さんからも積極的にご意見があったそうですね
三宅氏:
むしろ、そうじゃないと困ります(笑)。イエスマンでは、良いものは生まれません。私たちのことを深く理解した上で、プロとして「こうした方がもっと良くなる」という意見をぶつけてくれるからこそ、本当の意味で「共創」できる。不思議なことに、笠井さんの提案に違和感を覚えたことが一度もないんです。同じ未来を、同じベクトルで向けている感覚がありました。

「商品」ではなく「作品」。瀬戸内の情景を映したデザインの力

―「クラフトジン瀬戸内」の象徴でもある、あの美しいロゴとラベルデザイン。初めてご覧になった時の印象はいかがでしたか?
三宅氏:
まず、強く印象に残るな、と。そして、私たちが暮らすこの瀬戸内の空気感…穏やかな時間の流れや、島々が織りなす風景が見事に表現されていると感じました。言葉にしがたい「感じ」を、ここまで見事に形にしてもらえたことに感動しましたね。
―笠井さんは、その「瀬戸内らしさ」をどのようにデザインに落とし込んでいったのですか?
笠井:
まず「瀬戸内とはどんな場所か」を歴史を掘り下げながら考えていきました。かつてシーボルトがこの地を訪れ、波間に浮かぶ島々の美しさを絶賛したという逸話があります。その普遍的な価値を、デザインの核に据えたいと思いました。瀬戸内に流れる穏やかな時間、静かな海のゆらぎ。そういったものを、象徴的なグラデーションや、あえて普通とは違う文字の組み方で表現し、瀬戸内ブランドとしての堂々とした佇まいを感じられるデザインを意識しました。
―このデザイン、社内での反応はいかがでしたか?
三宅氏:
全員が絶賛でしたね。普通は誰かしらマイナスの意見が出るものですが、それが一切なかった。営業担当からは「瀬戸内というストーリーが語りやすく、売りやすい」と声が上がり、経営陣も非常に好意的でした。
―ブランドがスタートして3年。どのような成長を感じていますか?
三宅氏:
おかげさまで、ブランド認知度は驚くほど高まりました。「ああ、あのクラフトジン瀬戸内ね」と言われることが増え、経営者としてこれほど嬉しいことはありません。SNSを見ても、お客様が自発的に美しい写真を投稿してくださる。デザインの力が、拡散の原動力になっているのは間違いありません。
さらには、ジン事業の成功が本業の日本酒にも好影響を与えているんです。「あのジンが美味しいなら、日本酒もきっと旨いだろう」と手に取ってくださる。「三宅本店さん、イメージ変わったね」と良い意味で言われることが増え、企業全体のブランド価値が向上している手応えを感じています。
笠井:
私も、SNSや友人を通じてブランドの広がりを実感することが多く、嬉しい限りです。友人に「贈り物でこれを選んだら、笠井のデザインだったんだね!」と連絡をもらったこともありました。作り手として、自分の仕事が世の中に浸透していく様子を身近に感じられるのは、大きな喜びです。

デザインは市場を変え、会社を変える

―三宅さんご自身には、何か変化はありましたか?
三宅氏:
社員が、私の意見をもっと聞いてくれるようになりました(笑)。やはり、口先だけでなく、目に見える「実績」を示すことが何より重要です。このプロジェクトの成功が、私自身の求心力を高めてくれました。そして何より、次の挑戦であるウイスキー事業に向けて、社員が一丸となって進める土壌ができた。これが最大の財産です。
―後発でありながら、クラフトジン市場で成功を収められた要因を、改めてどう分析されますか?
三宅氏:
正直、最初の1年は伸び悩み、焦りもありました。しかし、そこで慌てず、販路を絞って丁寧にブランドを育てたことが功を奏し、2年目の後半から一気に火がつきました。大手メーカーさんがジン市場を盛り上げてくれた追い風や、国内外のコンテストで数々の賞をいただけたことも大きい。ただ、根底にあるのは、「デザインが良いから、この酒は必ず売れる」という絶対的な自信があったからです。
―三宅本店さんにとって、シュンビンと組んで最も良かった点はどこでしょうか。
三宅氏:
こちらの未来を先読みし、背景まで深く汲み取ってくれる点です。言われたものを作るだけのデザイン会社はたくさんありますが、シュンビンさんは「なぜそうしたいのか」という本質を理解した上で、私たちの想像を超える提案をしてくれる。だからこそ、思い描いた通りの、いや、それ以上の成果が出せるのだと思います。
―最後に、デザインが持つ力について、どのようにお考えですか?
三宅氏:
デザインは、市場を変える力がある。そう確信しています。
どんなに美味しいお酒でも、まずお客様に手に取ってもらえなければ、その価値は伝わりません。デザインは、その最初の、そして最も重要な架け橋です。もちろん、コンセプトと乖離したデザインは、一瞬は売れても続きません。自分たちの「らしさ」とは何かを突き詰め、それを最高の形で表現してくれるパートナーと出会うこと。それができれば、デザインは会社さえも変えるほどの、とてつもない力を発揮します。現に、私たち三宅本店が変わったのですから。
笠井:
今は、ほとんどの商品が「美味しい」のが当たり前の時代です。その中で消費者が何で選ぶかと言えば、やはりブランドやデザインの力が大きいと思うんです。その「美味しさ」という価値を、いかにデザインで可視化し、記憶に残る体験として届けられるか。そこが私たちの使命だと感じています。
―お話の最後に、三宅さんが一番気に入っているエピソードを伺えますか?
三宅氏:
行きつけの飲み屋でこのクラフトジン瀬戸内を飲んでいたら、隣にいた見知らぬ男性が、私のグラスを指差して連れの方に「これ、ええ酒やで。うまいんや」って、すごく気に入った様子でクラフトジン瀬戸内の話を始めたんです。
嬉しくて「僕が造ってる酒なんです!」って言いそうになりました(笑)。誰かに誇らしく語りたくなるのは、ブランドがお客様の心に届き、愛されている証拠ですよね。それを伝える力があのボトルにはあるんです。作り手として、これほど嬉しいことはない。シュンビンさんには、本当に感謝しています。

まとめ

三宅本店様との「SETOUCHI DISTILLERY」プロジェクトは、私たちシュンビンにとっても、デザインが持つ真の力を再確認させてくれる、非常に貴重な経験となりました。

もしあなたが今、事業承継や新規事業の局面で「自社だけの価値」をいかに表現し、伝えていくべきか、その答えを探しているなら。ぜひ一度、私たちに皆様の想いをお聞かせください。

あなたの会社の未来を、そして市場さえも変えるデザインを、共に創り上げていける日を心から楽しみにしています。

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