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PROJECTインタビュー

ブランディング 事例インタビュー 興亜繊維工業株式会社様「CROWTO」「ZESSAN」

「次世代へ残す新事業を。」法人設立80年以上の老舗が100年企業となるための、デザインという名の経営戦略。

ブランディング 事例インタビュー 興亜繊維工業株式会社様「CROWTO」「ZESSAN」
CLIENT
興亜繊維工業株式会社 様
MEMBER
興亜繊維工業株式会社 北村社長、北村課長、中倉様
シュンビン株式会社 室 信行(プロデューサー)、 松下 紀子(デザイナー)
WEB SITE
https://xenola.jp/zessan/ https://xenola.jp/crowto/
AREA
滋賀県

はじめに

法人設立81年の老舗繊維加工メーカー、興亜繊維工業様。長年培った技術を活かし、スーパー繊維防鳥糸「CROWTO(クロウト)」と第4世代の釣り糸(ライン)「ZESSAN(ゼッサン)」を同時期に立ち上げました。しかし、BtoB主体だった同社にとって、BtoC市場への参入は未知の挑戦。そこで私たちは、新事業立ち上げの伴走者として、その挑戦を支えました。 今回は、興亜繊維工業様の北村社長、北村課長、中倉様に、シュンビンの室、松下がお話を伺い、新事業立ち上げの背景にある危機感、ブランドデザインによる解決、そして未来の展望を深掘りします。

法人設立81年の老舗が直面した「20年後の危機」

シュンビン 室:
新事業「CROWTO」「ZESSAN」の立ち上げからご一緒させていただきましたが、改めて、事業を始められた背景にある課題感をお聞かせいただけますか?
北村社長:
当社は創業以来、『タイヤコード(スダレ織)』を中心としたゴム用補強繊維の加工業者として歩んできました。法人設立70年を目の前にした2013年に近くを流れる河川が決壊し、工場全体が泥水に浸かる被害に遭いました。設備や製品に壊滅的な打撃を受け、当社は瀕死の状態となりました。しかしその際には、地縁血縁の人は言うに及ばず、数多くの得意先様から、物心両面のご支援をいただき、復旧を果たし今日に至りました。その復旧の過程で、既存事業の持続可能性について考えました。「空気入りタイヤ」は発明以来100年以上、基本的な製造方法は同じで現在も存続してはいます。しかし、当社が高いシェアを持つ自動車用「燃料ホース」や「ターボホース」用の繊維は2030~2035年に来ると言われている電気自動車の時代が到来すれば必要が無くなる商品です。そう思った時に、既存事業に依存し続ける危機感と、これまで培ってきた高い技術力を用いて新しい製品を生み出すことはできないかと新事業の立ち上げを模索しました。その中でスーパー繊維を汎用繊維でほぼ100%同軸上でカバーし、それを溶融する技術を確立し、CROWTOやZESSANの元となるハイブリッドスーパー繊維「Xenola(ゼノーラ)」の開発に至りました。

カラス対策と次世代釣り糸:2つの市場を狙う

シュンビン 室:
その中で、なぜ釣り糸と防鳥糸にターゲットを絞られたのでしょうか。
北村社長:
まず、鳥獣被害額が多い動物に着目し、1位:鹿、2位:イノシシ、3位がカラスであることを知りました。その中で鹿・イノシシについてはネットや電柵等の対策商品が多数あるが、カラスに対しては決定的な商品がないことを知りました。ステンレスワイヤーの先行例から、ステンレスワイヤーと同線径で同強度、そして1/4の重量、耐候性に優れているという特徴を持っていることから、未開拓市場を開拓できるかもしれないと思い、開発しました。
釣り糸は、合成繊維の中では第1世代がナイロン、第2世代がフロロカーボン、第3世代がポリエチレンの組紐と進化してきましたが、この複合技術により「第4世代」と名乗れるものができたと思ったんですね。強く、撥水性があり、摩擦に強く、自在なカラーバリエーションで釣り糸に求められる特性を複合加工技術で実現できると。国内の釣り糸だけで70億円以上の市場があることを知り、ちょうどコロナ禍でアウトドアが注目されており、大きなマーケットだと考えました。
CROWTOは、試験的に柿農家さんに施工した結果、「明らかにカラス被害が減って本当に助かった」と効果を実感頂き、販売への手応えを感じております。
ZESSANは、釣る魚によって求められる特性が多岐にわたりますが、特性を活かせそうな太刀魚等の歯が鋭い魚に的を絞って開発を進めています。

「複数事業同時開発」の舞台裏

シュンビン 室:
複数商品を同時に開発されるのは珍しいですが、CROWTOとZESSANを同時期に始められたのはなぜですか?
北村社長:
芯鞘(しんさや)の技術は芯と鞘の素材を変えることで、組み合わせは多岐に渡りますが、その中でそれぞれに特性を持つ糸の組み合わせを見つけることができました。1つの商品だけに的を絞っては、上手くいかなかった時にまた1からのスタートとなりますが、複数個同時進行することにより、開発・営業の両面の幅が広がると考えました。
中倉氏:
開発側としては、かなり大変でしたね。素材の組み合わせによって、温度等様々な部分に気を配らないといけません。展示会に出展するというエンドが決まっている中で、社長から複数のタイプや色を求められ、苦労しましたが、実際に製品が完成した時は達成感がありました。

シュンビンとの出会いと、見えない「すごさ」を形にする挑戦

シュンビン 室:
私たちにお声がけいただいたきっかけは、京都銀行様からのご紹介でした。北村社長の熱意ある説明は非常に分かりやすく、当時のメモも残っています。自動車産業縮小の中で、CROWTOやZESSANといった新市場への展開、特にZESSANで7.8億円の売上を目指すという壮大なビジョンに感銘を受け、ぜひ力になりたいと思いました。北村課長への事業承継も見据え、次世代への売上貢献を願う社長の思いに共感しました。
シュンビン松下:
最初は繊維の専門知識がなく「スーパー繊維って何?」という状態でした。しかし、興亜繊維工業様の工場と長年の技術力に感動しました。BtoC市場への新たな挑戦にワクワクし、一緒に携われることを楽しみに感じましたね。
北村社長:
私たちが何を作っていて、何がすごいのかをどう伝えるかが課題でした。最初は伝わりきってないと感じましたが、話すうちにシュンビンさんが深く理解してくれました。デザイナーさんが、私たちの意図を正確に汲み取って形にしてくれた時は「さすがプロだ!」と感動しました。

当初の不安が確信に変わった、ワークショップの意義

シュンビン 室:
ブランドワークショップをさせて頂きましたが、手探り感はありましたか?
北村社長:
正直、「こんなんでできるんかな」と思いましたね(笑)。でも、結果的にはブレインストーミングや、付箋を使った分析手法が良かったのでしょう。このパンフレットのように「売れる商品」に仕上げる点で感謝しています。展示会では、知らないお客様からも「すごく良いデザインですね」と声をかけていただき、今後の土台ができました。特にホームページのTOPのイメージ写真がお気に入りです。カラス対策のCROWTOは、農家の方々が効果を実感すれば、必ず広まると信じています。
北村課長:
ワークショップは長時間で、長く感じて、「そこまでやる必要があるのか」という印象がありました。最初は半信半疑でしたが、シュンビンさんの真剣な取り組みを見て、デザイン展開に必要なプロセスだと後から理解できました。私たちに寄り添い、素晴らしいデザインに落とし込んでくれたのは非常にありがたかったです。
中倉様:
BtoBしか経験がなかったので、BtoCのお客様を考えるのは初めてでした。ワークを通して、ターゲットを明確にしないと売れない、BtoCの難しさを痛感しましたが、同時に新しい視点を得られました。「このお客様にはこんな提案ができる」といったように、街を見る目も変わりましたね。
シュンビン松下:
ワークショップでは、クライアントの成し遂げたい「思い」を何よりも大切にしています。デザインを出す前に、ネーミングやコピーを決めながら認識をすり合わせ、エンドユーザーの方がブランドにどう入り込み、ファンになるかというブランド体験全体を意識して進めました。
シュンビン 室:
ワークの目的は、興亜繊維工業様内でブランドに対する考え方を一本化することでした。また同時に、繊維の素人である私たちも、ワークを通して貴社を深く知り、デザインに意味を持たせることができました。この濃密な時間は、今後のプロジェクトにも活かしていきたいです。

伝わるデザインへのこだわりと、現場での試行錯誤

シュンビン松下:
防鳥糸は、市場に出回っている商品は効果が伝わりにくい見た目のものばかりだったので、今回新しく作るものに関しては、しっかりと技術に裏打ちされていることを表現したかったので、そこは気を付けてデザインを進めました。
北村社長:
商品名は分かりやすいのが大事ですね。ただ、CROWTOは正しく張らないと効果が出にくい。消費者の方が必ずしも説明書通りに使ってくれないことも痛感しました。ZESSANはまだまだテスト段階ではありますが、石垣島のお客様からは具体的な使用感を教えていただくなど、現場でのフィードバックも得られています。
シュンビン 室:
新事業は社内でどのように共有されていますか。
北村社長:
社内ではまだあまり新事業の共有はしていません。やはり、ゼロをイチにするのは難しいと実感しています。日常的な生産に至るまでの道のりは遠いですが、CROWTOを元にした網状ネットの開発も進み、売上に貢献すると期待しています。今までになかった商品なので、地道ではありますが農家の方に直接効果を普及していくことが重要だと考えています。今はやっと芽が出たという状態ですが、これを枯らさずに、社内の重要な樹として育てていきたいですね。

納期厳守と手厚いサポート:シュンビンに「頼んでよかった」

シュンビン 室:
シュンビンとのプロジェクトで、特に「やっててよかった」「助かった」と感じたことはありますか?
北村課長:
最終納期に追われる中、シュンビンさんの小回りの利く、ぎりぎりの対応に本当に助けられました。私たちの目標から逆算して、やるべきことを具体的に示してくれたので、計画通り準備を進められました。
中倉様:
私たちに危機感が足りない中で、シュンビンさんが段取りを全て立て、資料作成やデザイン面を提案してくれたおかげで、スムーズに展示会を進められました。展示会前はほぼ毎日連絡を取り合っていましたね。
シュンビン松下:
時間の制約がある中で2つのプロジェクトを同時進行で進めたので、常にスケジュールを意識していました。製品を開発しながらデザインも進めていたので、いただいた試験データのアップデートを反映させながら、デザインクオリティを高めるためギリギリまでブラッシュアップしましたね。
シュンビン 室:
朝5時に集合して、極寒の海で撮影したことは忘れられません。狭い船で酔い止めを飲みながらでしたが、素晴らしい写真が撮れて本当に良かったです。
北村社長:
深清水(滋賀県高島市)の畑での撮影や、釣り糸の実釣撮影ができたことで物事が大きく動き出しました。日の出のシルエットの写真など、プロの技には感動しましたね。シュンビンさんに頼んで本当に良かったです。自分たちだけではできないことがたくさんありますから。

後継ぎ・新規事業経営者へのメッセージ

シュンビン 室:
最後に、同様の課題を抱える経営者の方々へ、シュンビンの活用方法や、新事業を通じて見えてきた景色について教えていただけますか?
北村社長:
商品を作りたい、売り出したいけれど、どうすればいいか分からない時、シュンビンさんのような存在が必要なのだと思います。私たちの場合は展示会などの明確な目標があったので、納期のある仕事として進められました。自分たちだけでは解決できないことは、伴走してくれる人がいると心強い。シュンビンさんは、地理的な近さだけでなく、担当者のきめ細やかな対応や、工場に足を運んでくれる姿勢など、信頼に足ると満足しています。
新しい事業は、まだ全ての資産を投入しているわけではありません。冷静な部分もありますが、成功させたいと強く思っています。新しいものが簡単に売れるわけではないですが、これは長期的な展望を見てのことです。
北村課長:
私はまだ30代ですが、後継者として、既存事業だけでなく、新しい事業を軌道に乗せないと、次の10年、20年、ひいては自分の老後もないと思っています。今は分岐点だと自覚しているので、一歩ずつでも事業を成功させていきたいです。
中倉様:
自分が作った製品なので、会社には細くても長く生き残ってほしい。それが一番の願いです。生み出したからには、作るだけでなく、売る責任も果たしていきたいです。
シュンビン松下:
私たちも生み出したブランドは「我が子」のような存在なので、「元気かな」と気をかけて長期的にサポートしたいです。
製品のメッセージがしっかり伝わるよう、ワークショップ後もSNSの反応やお問合せがあったかどうかなど、常にアンテナを張り、事業が広がるようお手伝いしていけたらと思っています。
シュンビン 室:
本日はありがとうございました。北村社長の事業への思いを改めて伺うことができ、私たちもさらに事業が進むようご提案していきたいと思います。

まとめ

興亜繊維工業様の新事業立ち上げは、「既存事業の寿命」という未来への不安と、「長年培った技術を活かした新たな価値創造」という強い決意から生まれました。

BtoC市場への参入という壁に直面する中で、私たちシュンビンに求められたのは、まさに課題解決の伴走者としての役割でした。

 

ワークショップで課題を深掘りし、興亜繊維工業様の「見えない技術力」を「伝わるデザイン」として具現化する過程は、

両社にとって新たな挑戦と学びでした。特に、BtoB主体だった興亜繊維工業様にとってはBtoCマーケティングの重要性を肌で感じる貴重な経験だったとのこと。

CROWTOを利用されている農家様からの喜びの声や、ZESSANのフィードバックは、着実な成果の表れです。経営者から現場まで、

社内全体が「新しい事業を成功させる」という強い使命感を共有していることが、このプロジェクト最大の強みだといえます。

 

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