JOURNAL
PROJECTインタビュー
ブランディング 事例インタビュー 株式会社安曇野ミネラルウォーター様 コーポレートロゴデザイン
会社の魂を、かたちに。CI刷新で挑む、安曇野ミネラルウォーターの企業変革〈後編〉

- CLIENT
- 株式会社安曇野ミネラルウォーター 様
- MEMBER
- 安曇野ミネラルウォーター 新井社長
シュンビン株式会社 笠井永充(アートディレクター)
- AREA
- 長野県
はじめに
後編で迫るのは、企業の「魂」とも言えるコーポレートロゴ(CI)の刷新プロジェクト。それは単なるマークの変更ではなく、会社の未来を定義し、全社員の想いを一つにするための、覚悟に満ちた決断でした。デザインは、組織に、そして経営に、いかなる力を与えるのか。新井社長とシュンビンの笠井が語る、企業変革の核心にご注目ください。「パーパス」から始まった、CI刷新への道
- ―前編に続き、今度は会社の「顔」であるコーポレートロゴの刷新について伺います。「mine」「はつそら」での信頼関係があったとはいえ、CIという重要なプロジェクトを再びシュンビンに託していただけた理由からお聞かせいただけますか。
- 新井社長:
- やはり、これまでの仕事で築き上げた「信頼」の一言に尽きます。もちろん、創業当時に苦労して作った最初のロゴにも、強い愛着がありました。Webコンペで30案以上の中から選び抜いた、「安曇野のA」と「頂点を目指す」という想いを込めたデザインです。
そのロゴを変えようと決意したのは、第2工場の建設がきっかけでした。どんな工場にしたいかを突き詰める中で、「パーパス(企業の存在意義)を空間化する」という考え方に出会ったんです。人は感情で動く生き物。ならば、社員が働く場所も、私たちのパーパスを体現した、気持ちが上がる空間にしたい。そう強く思うようになりました。
そこから、空間デザイナーのnottuoさんや、製造現場に壁画を描いてくれたOVER ALLsさんといった素晴らしいクリエイターとのご縁が生まれました。この流れの中で、ふと立ち止まったんです。「我々のパーパスとは何か、これまでやってきたこと、これからやりたいことは何か」。それを改めて定義し直す必要がある。そう考えた時、会社の象徴であるロゴも、未来に向けて進化させるべきだと。そのパートナーは、私たちの想いを深く理解してくれているシュンビンさんしかいないと、迷わず連絡しました。
- ―CIをデザインする上で、土台となる企業の価値観についてもお聞かせいただきましたね。
- 新井社長:
- ええ。私たちのパーパスは「安曇野の資源の価値を世界に広め、縁ある人々の希望の星となる」ですが、その実現のために大切にしたい価値観が5つあります。中でも核となるのが3つです。
一つ目は「凡事徹底」。水を作る仕事は地味でシンプルですが、当たり前のことを疎かにすれば、一瞬で信頼を失う。だからこそ、当たり前のことを馬鹿にせず、きちんとやり抜くことが最も重要です。
二つ目は「進取果敢」。何事も早く決め、すぐ着手する。大企業に唯一勝てる強みは、このスピード感とトライアンドエラーの精神だと信じています。
そして三つ目は「和と実利」。社員が気分良く働ける、優しい会社でありたい。人間関係を大切にし、互いを尊重する「和」の心。そして、社員一人ひとりの物心両面の幸せを実現するための「実利」。この二つを両立させることが、会社を続ける意味だと考えています。この哲学が、新しいロゴの礎になっています。

セオリーからの脱却。「青を使わない」という決断
- ―笠井さんは、これらの多くの情報や想いを、どのようにデザインコンセプトに落とし込んでいかれたのでしょうか。
- 笠井:
- 新井社長のお話や社員の皆様へのヒアリングを通じて、全ての想いは「安曇野の資源の価値を世界に広め、縁ある人々の希望の星となる」というパーパスに集約されていると感じました。ですから、比較的早い段階で「星」をモチーフにしたいと考えていました。ただ、星という形はシンプルだからこそ、そこにどう「安曇野ミネラルウォーターらしさ」を込め、社員や地域の方々にとっての「本物のシンボル」にしていくか。そこが最大の挑戦でした。

- ―新井社長は、新しいロゴのプレゼンテーションを受けられた時、どのように感じられましたか?
- 新井社長:
- 3案に絞ってご提案いただきました。実は当時、工場の壁画の件で会長と意見がぶつかった直後で、「もう揉めたくないな」というのが正直な気持ちでした(笑)。創業時のロゴに愛着はありましたが、その経験に縛られて組織が硬直化するのは絶対に避けたかった。過去を抱えながらも、進化し続ける必要がある。そう考えていたので、B案が旧ロゴの面影を残していたのに対し、全く新しいA案(現在のロゴ)を見た瞬間、迷いはありませんでした。「これだ」と。
ただ、社員全員にアンケートを取ったところ、A案とB案で意見が真っ二つに割れたんです。B案を選んだ社員の多くは、「今までの愛着を失いたくない」という理由でした。その優しい感覚は、うちの社員らしくてすごく好きなんです。でも、だからこそ、私は「変えなければならない」と強く思いました。
特に心を掴まれたのは、「青を使わない」という提案です。ミネラルウォーター業界では、青を使うのがセオリー。そこにあえて流されないことで、私たちの進化していく姿勢を表現できると感じました。会社が大きくなるほど保守的になりがちですが、私は経営者として、常に変わり続けるという意志を示したかった。その想いに、このロゴは完璧に応えてくれました。
- 笠井:
- ロゴの設計では、形や色に必ず意味を持たせることを大切にしています。通常は2〜3の意味を込めることが多いのですが、今回のコーポレートロゴは一つの造形に8つの意味を込めた、私にとっても挑戦的なデザインでした。安曇野ミネラルウォーターさんを象徴する要素を一つの形に集約できたのは、奇跡に近い感覚があります。
ブランドカラーについては新井社長のおっしゃる通り、水や自然を連想させるブルーやグリーンが最初に浮かびましたが、未来に向けて変化を続ける企業姿勢を受け止められる色として、あえて「固定化されない」シルバーを提案しました。想いが伝わり、採用いただけたことがとても嬉しかったです。


デザインがもたらす、見えざる企業変革
- ―今年の1月から新しいロゴに切り替わりましたが、社内外の反応はいかがですか?
- 新井社長:
- まず、社員にはロゴを大きくプリントしたTシャツやロンTを現場で着てもらっています。ロゴは単なる飾りではなく、精神的に繋がるためのもの。社内でその光景を見るたびに、嬉しくなりますね。すごく浸透していると感じます。社外の方々も、工場に来られると皆さん「かっこいいですね」と仰って、エントランスのロゴの前で写真を撮りたがるほどです。権威的ではなく、どこか優しい雰囲気があるのが好評です。
- ―素晴らしいですね。今後のブランド推進において、シュンビンと笠井に期待することを教えていただけますでしょうか。
- 新井社長:
- 笠井さんに期待することは、というより、これだけ素晴らしいデザインをいただいたからには、私たちが「成功させなければいけない」という責任を感じています。「mine」も「はつそら」も、まだ始まったばかり。社内の軋轢を乗り越えてまで手に入れたかった未来は、まだ手にしていないんです。私たちの存在をもっと広め、共感してもらい、その結果として社員の状況が良くなっていく。まだ、その一歩目を踏み出したに過ぎません。シュンビンの皆さんにも「本当にやってよかった」と心から思っていただける場所まで、必ず持っていきます。

「中小企業こそ、デザインを武器にすべきだ」
- ―新井社長がそこまで強く信じる「デザインがもたらす力」とは、具体的に何なのでしょうか。
- 新井社長:
- 私は絵もファッションもセンスがない。だから、センスがある人の意見に素直に従うと決めています。転機は4年前、ある取材で撮られた自分の写真があまりにひどく、「これでは誰の共感も得られない」と猛省したことでした。そこから学びを深める中で、人は「空間」から多大な影響を受けることに気づいたんです。
「会社に行きたくない」場所ではなく、「行くと気持ちが上がる」場所。良い仲間と良い仕事があると感じられる環境なら、人生の質は大きく変わるはず。社員が「家よりいい」と言ってくれたのは、最高の褒め言葉でした。
多くの経営者はデザインに目を向けませんが、私はこれが「勝ち筋の一つ」だと確信しています。同じ投資をするなら、最新の機械を入れるだけでなく、空間の扱いにこそ目を向けるべきです。社員を単なる「労働力」や「コスト」と見なせば、合理化を追求し、快適さは後回しになる。でも、人は感情の生き物です。その感情を無視して管理されるのは苦しい。人を人として扱うために、デザインの力は絶大です。
特に、私たちのような中小企業こそ、デザインを強力な武器にすべき。この地域の同業他社と比べても、同じ条件なら間違いなく当社を選んでもらえる自信があります。採用において、圧倒的に有利なポジションを築けた。先日、ファミリーマートさんの営業担当の方々が来社された際も、私たちの想いや取り組みを熱心に聞いてくださいました。それは、言葉だけでなく、この空間が「本物だ」と伝えてくれたから。言語と空間が一体となることで、共感は揺るぎないものになるんです。
- ―最後に、お二人の間で自由に質問を交わしていただけますか。
- 笠井:
- 新井社長は「自分に感性がない」と仰いますが、新工場もロゴも、ご自身の直感で「これだ」と選ばれている。クリエイティブへの感性やリテラシーは非常に高い方だと感じています。経営者の視点から、デザインをどう捉えていらっしゃるのでしょうか。
- 新井社長:
- アイデアを閃いたり、論理的に考えたりするのは好きなんです。ただ、経営者としてスタイルは色々試してきました。昔は自信のなさから、パワフルな経営者を目指した時期もありましたが、自分らしくないと反省しました。「優しくやるのは弱いことだ」と思い込んでいたんです。でも、そうじゃないと気づいた。
服装や車も、社員から「夢がない」と指摘され、ハッとしました。「社員がなりたいと思うような素敵な社長でなければ」。そう決意して、仕事だと思って全てを変えました。すると、不思議なもので、私がちゃんとしていると「ちゃんとしている人たちが応募してくる」という変化が起きました。デザインへのこだわりも同じです。会社が、社員が、素敵である方が、良い仕事や良い人材に恵まれる。地方では特に、そこまで気を配っている経営者は少ない。だからこそ、これは大きな差別化要因になると信じています。




まとめ
安曇野ミネラルウォーター様は、「水」という商品の価値を最大化するため、空間を含めたデザインを経営戦略の中心に据えました。そのことが、デザインが社員のモチベーションや採用競争力、そして外部との関係性を強化する強力な武器につながっています。
シュンビンとの協業は、単に美しい形を作ることではなく、企業の深い本質を掘り起こし、目指すべき未来の姿を定義し、組織の進化を加速させるプロセスそのものです。安曇野ミネラルウォーター様の挑戦は、新規事業や後継ぎの経営者様にとって、自社の未来をデザインするための、力強い道標となることでしょう。
- 株式会社 安曇野ミネラルウォーター:https://azumino-mineralwater.co.jp/
- WORKS「mine」: https://www.shun-bin.com/works/works13/
- WORKS「はつそら」:https://www.shun-bin.com/works/works37/
- WORKS「コーポレートロゴ」:https://www.shun-bin.com/works/works39/
企業の「らしさ」を
徹底的に深掘りする
デザインの根本にある企業の魅力を引き出す
ワークショップを実施中